「死んだら、どこに行くか知ってますか?」
突然のアルフォンスの言葉に、俺は戸惑った。
読書の手を止め、目の前にいるアルフォンスを見る。
笑っては、いる。
「なに、急に」
「いや、なんとなく」
こいつのなんとなく、はなんとなくではない。
どこか確信に近いものを持って話しているはずだ。
二年も一緒にいりゃ、言葉の使う意味も場所も少しはわかってくる。
死ぬ。
ということに対して、俺は少し敏感だ。
そのことはアルフォンスは知らない。
・・・知ってほしくもないが。
「・・・死んだら・・・生き返らない場所に行く、かな」
「それは直訳ですよ」
「だってそうじゃん、それがあたりまえじゃないの?」
アルフォンスは少し考え込みながら、下を向いた。
そんなに真面目に考えることでも、答えることでもないと俺は思っている。
実際、「死んだ後」と言うのは、とてもシンプルだからだ。
「死ぬまで」が複雑で、それが「死んだ後」という核につながる。
人の死は、なににも変えがたいものだからこそ、シンプルな空虚がそこにはある。
誰にもわかるわけがない、死んだあと、どこに行くかなんて。
アルフォンスは、俺をもう一度見た。
「そうですね、生き返らない場所に行く。
確かにそうですよね」
笑った顔がやけに引っかかった。
さっきまで奇麗だった花が、押しつぶされたような。
こいつ、こんな顔して笑ったっけ?
「どうした?なんか変だぞ」
「え?そうですか?」
本人はそれに気づいているのかいないのかはわからない。
それを隠すように、少し控えめに笑った。
死んだら 人は ここには帰れない場所に 行く
そこは どこ ?
「あ、でも」
アルフォンスが続ける。
「思い出として残ることはできますよね」
「……」
思い出、か。
「きっと、体はなくなっても、思い出はずっと誰かの中で生きられるはずです」
「そうだな」
俺の中にも、思い出は残っている。
母さんの笑顔。怒った顔。あの村の景色。におい。
笑い声。夕焼け。星空。大好きだった。
そしてそれを、失くした日。
それは、確かな思い出だ。
「よかった」
「?」
「いえ、こっちの話しです」
「おまえやっぱ変」
「えー?」
この時に、アルフォンスの言葉を解っていても、なにも変わらなかっただろう。
俺の求めるものはひとつだけだったし、こいつの生きざまは、こいつにしか作ることがで
きない。
だけど、ほんの少しだけでも。
“よかった”の意味を解っていたら、おまえともう少し分かり合えたかもしれないのに。
ここいいる存在を、おまえのために、つくることができたかもしれないのに。
おまえとのいつもの一日が、いつも通り終わった日。
大切な思い出だよ。
俺の心の中に、その毎日が
変わることなく、生きている。
息を、している。